オギヨディオラは韓国の舟漕ぎの掛け声。1958年生まれのオヤジが趣味という数々の島々をたゆたいながら人生の黄昏に向かっていく


by mihira-ryosei
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dog ear 13 知と熱  日本ラグビーの変革者・大西鐵之祐


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 日本ラグビーを代表する人物、大西鐵之祐という人物をとことん掘り下げた本である。スポーツジャンルの本では、間違いなく傑作。ラグビーというスポーツの魅力をこんなに見事に描いた本はないと思うし、大西鐵之祐という人物は、ラグビーのみならず、教育や人間関係、組織論、さらには平和にまで、思索を広げてくれる。筆者の飛びぬけた力量のなせる業であろう。この秋から、ラグビーというスポーツにかかわることになったので手にとってみたのだが、その内容の深さに驚嘆した。『オシムの言葉』が売れているようだが、オシムと大西鐵之祐に共通しているのは、苛烈な戦争体験である。このことは決して偶然ではないだろうと思う。以下、僕が、折り目、dog ear
をつけたところから引用。

 大西が新人の1934年度、早稲田は全勝をかけた明治戦に敗れた。・・・早稲田大学正門そばのレストラン「高田牧舎」にて残念会が開かれる。そこで、奈良より上京して一年に満たぬ大西鐵之祐は、瞬時のうちにラグビーの虜と化すのである。最上級のレギュラー選手が、大西のようなインゴール組にも、「すまなかった」と頭を下げて酒をつぎにくる。慰労の言葉をかけるOBの献身、「来年は勝つ」と誓う部員の叫び。個人競技出身の大西は驚き、感激し、奮い立った。「みんなワーッと泣いた。その雰囲気に僕は、一流のラグビーはすばらしいものだということをつくづく感じた。このとき僕のラグビーというものとの本当の出会いでしょうね。」(『ラグビー 荒ぶる魂』大西鐵之祐著)
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 「実際、戦争に直面すると、人間の理性などと言われているものは、なんの歯止めにもならない。戦闘をやって自分の戦友が殺されたりすると、その戦闘が終わって敵の捕虜などを捕らえると、まるで物を扱うように殺してしまう。・・・従って。スポーツのような闘争の場面で何かアンフェアな行動をする前に、「ちょっと待てよ」とブレーキをかけることのできるような人間にする、そういう教育が重要ではないかと考えるのである。私がスポーツにおける闘争を教育上いちばん重要視するのは、たとえばラグビーで今この敵の頭を蹴っていったならば勝てるというような場合、ちょっと待て、それはきたないことだ、と二律背反の心の葛藤を自分でコントロールできること、これがスポーツの最高の教育的価値ではないかと考えるからである。・・・・判断する材料とか、判断することを教えることはできるが、判断した通りに行うということは、その場面を与えられた人間にしかできないのではないか。だから人間が人間を教育する場合にいちばん肝心なことは、双方の間に絶対的な愛情と信頼があり、そのとき正しいと思うことを死を賭しても断固として実行できる意思と習性をつくりあげることだといえよう」(『闘争の倫理』大西鐵之祐著)最後のくだりは、なんと表現するのか、とても攻撃的である。大西は言い切る。死を賭して「狂気の沙汰」を回避させよ。つまり闘争を忘れぬ反戦思想である。

 ロッカー室。・・・・大西監督が白い徳利と盃を携えて入ってくる。無言。ひとりずつ水盃を短く干す。大西へ盃は戻った。口に含む。床へ叩きつけた。
「手を握ろう」
そして有名な言葉。
「歴史の創造者たれ」
予定を5分ほど遅れたジャパン先蹴のキックオフ。小笠原が鋼の身をイングランドの白い壁へぶつけた。

 1977年度、早稲田学院の初の花園出場時のスクラムハーフ、佐々木卓による「大西鐵之祐の定義」が面白い。「百の理屈を教え込んで百一番目には理屈じゃないと断言できる人」

 「うしろから機銃掃射されてみい。みな十一秒台で走っとるがな」
大西は、よく、ラグビー部員を前にしてのミーティングやティーチィングで例に引いた。人間のベストの限界を知れ。・・・・「マラソンの瀬古なんか、35キロ過ぎたら、撃てばいいんだ。背中めがけて。絶対に優勝だよ」なかば本気なのだ。「だいたい駄目だと思ったあたりで限界の七割だ」は持論だった。・・・大西は戦場で思い知った。

 コーチの資質に、「他者への関心」は欠かせない。いかに名手でも、他人に興味のわかない性格では、本物の指導者は務まらない。せいぜい技術アドバイザーが精一杯だ。大西には他者への関心があった。そしてそれが愛情へと昇華を遂げるのだ。コーチに最も必要な資質とは。大西に問うてみた。即答だった。
 「そこにいる人間を愛する能力だ。これは天性なんだ。ない人間にはないんだよ」

『知と熱 日本ラグビーの変革者・大西鐵之祐』 藤島大 (文春文庫)
by mihira-ryosei | 2006-08-06 19:35 |