オギヨディオラは韓国の舟漕ぎの掛け声。1958年生まれのオヤジが趣味という数々の島々をたゆたいながら人生の黄昏に向かっていく


by mihira-ryosei
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dog ear 16 ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実

 
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 ビートルズのレコーディング・スタッフであった、ジェフ・エメリックの本である。ビールズが、ライヴ・ミュージシャンであることを辞め、スタジオでの創作活動に専念し始め<リボルバー>を発表し、<アビイ・ロード>で解散するまでの、生々しい克明な記録である。600ページ近くの大著を、あっというまに読み終えてしまった。
リバプールからロンドンにやってきた革命的バンド、このことの意味については考えたことがなかったが、どうやら、昔なら青森や根室から、東京に突然凄いのが現れたような衝撃だったにちがいない。ビートルズのひとりひとり、とりわけジョンとポールが発する才能のオーラは、エネルギーをスタジオに充満させ、熱伝導のようにスタッフにも伝わり、前例を次々と覆すとレコーディング手法にチャレンジさせ、音楽の革命を成し遂げる。そしてその熱量が頂点に達したとき、破綻が生まれ、友情が壊れ、終焉を迎える。その現場の証人でありつづけた筆者。
 この本、感慨は尽きることがない。そして、この本をよんでからというもの、ビートルズばかり聞いている。
 

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 ポールは几帳面で計画的なタイプだ――いつもノートを持ち歩き、読みやすい字で、歌詞やコード進行を書き留めていた。対照的にジョンは、いつも混乱をきたしているようにみえた――思いついたアイディアを走り書きしようと、しょっちゅう紙切れを探しまわっていた。ポールは生来のコミュニケーション上手だった――ジョンは自分のアイディアをうまく言葉にできなかった。ポールは外交家だった――ジョンは扇動家だった。ポールは口調がやわらかく、滅多に礼を失しなかった――ジョンは大口叩きで、かなり無礼な男だった。ポールはあるパートを完璧に仕上げるために、長い時間を費やすことも厭わなかった-ジョンはせっかちで、すぐにあたらしいことをやりたがった。ポールはたいてい、自分が求めるものを正確に把握し、批判を受けると気分を害した――ジョンはずっと神経が太く、他人の意見をオープンに聞き入れた。事実、特に強い思い入れがないかぎり、彼はたいてい変更を受け入れていた。(6 ハード・デイズ・ナイト)

 あのビートルズが・・・と信じられないことだが、録音コストには気を使わざるを得なかったようだ。<イエローサブマリン>のブラスは、著作権惜しさに、既存の演奏を切り刻んで、再生してつかったというエピソード。

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 ジョージ(マーティン)は・・・・ぼくに今日の一部をまっさらの2トラックに・テープに録音させた。そしてそのテープに録音させた。そしてそのテープを細かく切り、空中に放り投げ、そのあとでまたつなぎあわせるように指示した。そうすればランダムな並びになるだろうと考えてのことだったが、実際につなぎ合わせてみると、ほぼ原型どおりに仕上がっていた!
(7 創意と工夫――《リボルバー》の舞台裏)

 傑作が生まれる瞬間にたちあえる感動とはどのようなものだろう。ビートルズに様々な軋みが生じていた後期にも、メンバーの傑作を認め、それをいっそうよいものにしていこうという意欲があったそんなことを感じさせてくれるシーンである。

 
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 最初の音を聞いた瞬間、ジョンの傑作だとわかった。彼がつくりだしたのは、「ストロベリー・フィールズ・フォエバー」と呼ばれる謎めいた場所への優しさあふれる、ほとんど神秘的とさえいえそうな賛歌だった。歌詞の題材がなんなのか、ぼくにはさっぱり見当がつかなかったけれど、まるで抽象詩のように言葉ひとつひとつが力を持っていたし、ジョンの声も幽玄で、どこか魔法めいた感触があった。彼がうたい終わっても、みんな圧倒されて押し黙っていた。と、ポールがその沈黙を破り、敬意をにじませたもの静かな声で、ひとこと「最高だ」といった。・・・・すぐさまレコーディングにとりかかりたい。スタジオにはグループの創造力が、一気に噴出したような感じだった。

 <ア・デイ・インザライフ>をめぐるエピソードである。

 
 ジョンにはひとつアイディアがあった。ものすごく小さな音が次第に大きくなり、ついにはなにもかも飲みこんでしまうという、いつものように抽象的なアイディアだった。するとそれに乗ったポールが興奮気味に、フル・オーケストラを呼ぶのはどうだろうと提案した。ジョージ・マーティンもその案を気に入ったが、同時にコスト意識も忘れず、わずか24小節のために。90人編成のフル・オーケストラを呼ぶなどという大判ぶるまいをEMIが許すはずがないと主張した。解決策を思いついたのは、意外にもリンゴだった。「だったら」彼は冗談のようにいった。「オーケストラを半分だけ雇って、1、2回弾かせりゃいいだろ」 全員がこのアイディアのシンプルさ―― あるいは無邪気さ―― に意表をつかれ、一瞬きょとんとした顔になった。 「おいリング(あだな)、そりゃ悪くないアイディアだぞ」ポールがいった。「だがきみたち、それでもコストの問題は・・・・」ジョージ・マーティンが遠慮がちに異議を唱える。議論に終止符をうったのはジョンだった。「もうよい、ヘンリー」命令を下す王様のような声で彼はいった。「おしゃべりはもう飽き飽きだ。とっととやってしまえ。」 (8 ここにいられて最高です。ほんとにわくわくしています ――《サージェント・ペパーズ》のスタート)

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「最後」に友情とチームワークが発揮された<ウィズ・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ>

 果敢にヴォーカルに挑む彼を、三人の仲間が取り囲み、マイクの数インチうしろから、声を出さずにはげましたり、指示を出したりしていたのである。四人の団結心を如実にしめす、感動的な光景だった。唯一の問題は最後の高音で、リンゴはなかなかこの音をきれいに出せなかった。(機械操作で処理しようとしたリンゴ) 「いや、リングちゃんとやらなきゃ駄目だ」ポールが最終的な結論をくだした。「大丈夫さ、集中すれば、きっとできる」ジョージ・ハリソンガ励ますようにいった。ジョンまでが、なんとか手助けしようとしたアドバイスを――決して技術的とはいえなかったが―― 口にした。「頭を思い切りうしろに反らせて、あとは運を天に任せろ!」 なんどかトライしたのちに、ようやくリンゴはその音を、ほとんどふらつくことなく伸ばしつづけた。
(9 傑作がかたちに ――《ペパー》のコンセプト)

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 <オブ・ラ・ディ・オブラダ>のレコーディングは、まさにその好例だった。ついさっきまでノリノリで、似非ジャマイカなまりを披露したり、陽気におどけたりしていたかと思うと、次の瞬間までむすっとして、この曲もやっぱりポールの「ばばあ向けのクソ」だとぶつぶつ文句をいいはじめる。ジョンの気分はいつ変わるとも知れず、事態は確実に悪化の一途をたどっていた。だからポールが数日後の夜、今までのレコーディングはすべて廃棄し、一からこの曲をやり直したいといいだしたとき、当然のようにジョンは怒り狂った。大声でわめきながらスタジオを飛び出し、そのすぐあとをヨーコがついていく。今夜はこれでお見限りだろうと、だれもが思ったが、その数時間後、明らかにさっきとはちがう精神状態で、彼は嵐のようにスタジオに舞い戻ってきた。・・・・・「そしてこのクソッタレな曲は」と彼は歯をむいてつけくわえた。「こうしてやればいいんだ」 あやしげな足取りで階段を降り、ピアノに向かったジョンは、力まかせに鍵盤を叩き、この曲をイントロになる有名なオープニングのコードを、むちゃくちゃなテンポで激しく弾いた。と、ひどく興奮した顔つきのポールが、ジョンの前に立ちはだかる。ぼくは一瞬、殴り合いになるのを覚悟した。「わかったよ、ジョン」彼は狂乱状態にあるバンドの仲間をまっすぐに見据えながら、きっぱりといい切った。「きみのやり方でやってみよう」たしかにポールは怒っていたのだろう。だが心の奥底では、長年のパートナーが自分の曲のためにアイディアを出してくれたことを、うれしく思っていたのではないか・・・たとえそれが、正気を失っているあいだに思いついたアイディアだったとしても。(11 ぼくが辞めた日――《ホワイト・アルバム》の舞台裏)


 アルバム・ジャケットの〆切が近づいてくると、ジョンとジョージもこのアイディアに二の足を踏み、リンゴの肩を持ちはじめた。たかだか写真撮影のために、あんな遠方まで旅をするということが、彼らにはどうしても納得できなかったのだ。「エヴェレスト行きがボツってことになったら、ぼくら、どこに行けばいいんだ?」ある日の午後、ポールが憤懣やるかたない様子で訊いた。ジョンとジョージは面食らったような顔になった。するとリンゴが口をはさんだ。「立った外で写真を撮って、《アビイ・ロード》ってタイトルにすればいいだろ」と彼は冗談のつもりでいった。信じようと信じまいと、アルバムのタイトルはこうして決められた。アビイ・ロードのお偉方たちは、長年にわたり、スタジオに対する彼らの愛情がこのタイトルの由来になったと主張してきたが、実際にはなんの関係もない。むしろ、あの当時の彼らはこの場所を嫌っていた。単純にできるだけ近場で済ませたかったというだけの話なのだ。(14 とどのつまりは――(アビイ・ロード)の完成) 
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『ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実』 ジェフ・エメリック&ハワード・マッセイ (白夜書房2006年)
by mihira-ryosei | 2007-02-25 13:41 |